FDM 3D プリンタとキーボード設計
本記事はキーボード♯1 Advent Calenderの17日目の記事です。
https://adventar.org/calendars/6246
こんにちは。3Dプリンタを用いてキーボードを開発している cyamy です。
大好きなペンギンの名前から頂いた、Forsteri というキーボードを開発しています。
本体の傾斜角度やベゼル幅・マウント方式等、ケースの設計において意識することはたくさんありますが、 今回は、FDM 3Dプリンタ でのキーボード開発時に気をつけることをまとめていきます。 これから取り組もうとしている方・気になっている方の参考になれば幸いです。
FDM 3D プリンタとは?
フィラメントと呼ばれるプラスチック線材を溶かし、積み上げることで立体を出力するものです。 中にはペレット状のプラスチックを用いるものや、廃プラスチックを用いるものもあります。 百聞は一見にしかず、ということ実際に印刷している動画をご覧ください。
なぜ FDM なのか?
技術的云々もありますが、正直なところ感情的な部分が大きいです。
誰でも入手できること、コミュニティの雰囲気が素敵なこと。メイカーズ・ムーブメントを支えている中心的存在であること。 そして学ぶ機会をたくさん与えてくれること。そんな FDM が好きだから作り続けています。
(ここらの考えは学生時代「作ることで学ぶ」をはじめ、Make本に多くの影響を受けました。 昨年のアドベントカレンダー「自作キーボードと 3D プリンターとものづくりの民主化」も素敵なので、是非!) www.oreilly.co.jp
FDMでキーボード設計するときに考えること
積み上げて形作る、ということを意識する
自分はどのような向きで樹脂を積み上げるか、設計と同時に考えています。 積み重ねた証が残る側面、制約の中で答えを見つける底面、可能性を秘めた上面。 初めて作るときは、いろんな出力を試してから設計を始めると、素敵な作品が出来上がりそうです。
オーバーハング
真下にプラスチックが積み上がっていない状態でプラスチックを配置しようとすると、形状が崩れたり、そもそも印刷ができなかったりします。 このように造形中、樹脂が空中に浮いてしまうような構造のことをオーバーハングと呼びます。
サポートと呼ばれる、土台となる樹脂を印刷することでこちらに問題に対処できますが、廃棄するプラスチックが発生してしまうことや、 オーバーハング面が汚くなってしまうため、発生しないように設計する必要があります。 やむを得ない場合でも、印刷方向を意識することで、サポートを用いず印刷できる場合があります。
ノズル口径・積層ピッチ
印刷時に用いるノズル口径や積層ピッチによって、側面の見た目が大きく変わります。 滑らかな見た目を目指すために、細かな積層ピッチを目指すのも一つのアプローチです。 大きな口径のノズルでは、印刷完了までの時間を短縮できるメリットもあります。
最近成果出せていないので研究中の写真でも。FDMらしさを活かしたキーボードを作りたいです pic.twitter.com/2NbZ6ij2Mx
— cyamy (@_cyamy) October 23, 2021
こんな感じの FDM らしさを生かしたキーボードを作りたい... www.tilde-printed.com
インサートナットについて
キーボードの部品とケースを繋げるために、ネジを使いたくなるかもしれません。 樹脂にそのままネジ穴を切っても良いですが、どうせならしっかりとしたネジ穴が欲しい。 そこで必要になるものが、インサートナットという部品です。 はんだごてで熱圧入をして、取り付けています。
インサート熱圧入 pic.twitter.com/R3lDneJ8ch
— Yusuke TADA (@yxtada) April 7, 2018
熱圧入は意外とコツが必要です。 キット化を検討している場合は、練習ができるパーツを用意することや、圧入後調整がしやすいケース構造にすると良いかもしれません。 圧入する穴と壁面が近いと、はんだごてでプラスチックを溶かしてしまう可能性が高まるので注意が必要です。
フレキシブルな素材の活用・探求
ダイレクトエクストルーダー搭載の FDM では、フレキシブルな素材(TPU・TPE)が印刷できます。 印刷密度を変えることで、柔軟性を細かく調整できるのも大きな強みです。 自分はまだまだ探求中ですが、キーボードでは以下の用途に使えるなと考えています。
- ガスケットマウント
- 複雑な基板デザインにおける、OTD ライクなガスケットマウント
- ストローク調整用のキースペーサー
- リアルフォースに付属しているアレ
- トッププレートと基板間に挟むミッドフォーム
- その他、消音や打鍵感向上のための部品
tpuをコの字型に印刷してプレート挟み込む構造がコンパクトにまとまるので気に入ってます pic.twitter.com/tDHr8lZ9yf
— cyamy (@_cyamy) May 26, 2021
FDM を活用したプロジェクトの紹介
うまく刺激を得て、自分の作品に生かしたいですね。
Dactyl Manuform
変態キーボード。こちらも FDM での作例が多く見られます。 これに影響を受けたキーボードは多々ありますが、Skeletyl というキーボードがお気に入りです。 github.com github.com
Prime_E Prototype
40's Alice-Style の代表格。試作に FDM が活用されたようです。 geekhack.org
Bakeneko
O-ring ガスケットマウントなキーボード。ケースの 3Dデータも配布されています。 github.com
3d Printed Keyboard
小さな印刷範囲の FDM でも 60%ケースを実現できちゃう、素敵なプロジェクトです。 www.youtube.com
今後
キット化に向けての研究・クオリティ向上に向けて 3D プリンタの改造(これはこれで深い沼)を進めていきます。 最近 RollerMouse を導入してとても好感触なので、相性の良いレイアウトも見つけてみたい。 コミュニティの皆さんのおかげで2年と半年も自作キーボードと向き合えています。とても嬉しい。 これからも険しい道のりですが、素敵な創作活動に巡り会えたことを光栄に思います。
来年はオフラインイベントに参加できたらいいな...
この記事は Forsteri Prototype (Gateron Pro Silver / CandyBar 40% PBT Keycap) で書きました。